浅野いにお発、浅野いにお着、だいたい絶望経由で鈍行「零落」
「おやすみプンプン」と「うみべの女の子」しか読んでいないので、作者が所謂面倒くさい理屈こき系の人という事ぐらいしか知らない。
その2つは好きな漫画だったので、単発のこの漫画も読んでみた。
作者の自伝のような内容らしいのだが、登場するキャラクターの造形がいちいち面白い。
特徴を強調してデフォルメされたような顔の人間が何人かいるが、それぞれの人間性と職業性を究極的に表現している。そしてたぶんバカにしている。
ヒット作の後の生みの苦しみ、離婚、風俗通い。零落を描く。
絵に描いたように面倒くさい理屈こきと空想家たちが、どうしようも無い会話を展開する。
論破したい読者をやきもきさせるように、作者はほとんどの理論と会話に穴と脆弱性を残す。わざとエサをチラつかせている。でも論破できない。読者だから。
全員が全員の足を引っ張り合って生きているようだ。私の職場みたいだな、とふと思うが、どこもこうなのだろう。
連載が終了して収入がストップ。なんだか疲れた様子で自らの通帳をのぞく作者。
3,000万円弱ある。メチャ金持ってんじゃんお前! と私の心は絶叫した。
漫画が売れなくなって風俗に走る様はカッコ悪い。
でもまだどこかカッコつけている節もある。だから良いんだ。
本人さえ分かっていないような、キザで漠然とした芸術性のインクがまだそこに染みている。オシャレではないし、作者の言い訳漫画でもない。深い哲学があるわけでもない。
でも好きだ。たぶんこの人は漫画が売れまくって億万長者になって世間から崇め奉られても、それでも同じようにウダウダ悩んでいるだろう。
この人はそういうタイプの人間だ。
この世界のほぼ全ての悩みは金で解決できる。でもこの男が抱えるのはそういう性質の物じゃない。
たぶんこの先も、我々が浅野いにおの漫画を読む理由の中には、この「救いがたい苦悩」見たさが含まれ続けるように思う。
悩むことと空虚感を感じ続けることがこの人のライフワークなのだ。
寒くなってなんとなく虚しいこの時期にピッタリだ。旬な読み頃が今のタイミングだ。
「あなた」にお勧め!
・「おやすみプンプン」を読んで気に入っている、浅野いにおが気になっている。
・絵が上手い漫画を読みたい(写真からのトレースを多用。実写寄りの絵です。人物も上手いです)。
・作者自身も良く分からん「漠然とした感覚的な何か」を好んで受け入れられる方。