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17人目の魔法少女は何を見る?「魔法少女育成計画」

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これはたった一言で紹介できる内容の小説だ。少女たちが、どのように死ぬか(相手を殺すか)にスポットを当てた能力系バトル小説。これで9割の説明がつく。

魔法少女育成計画」というアプリゲームの力で、本当に魔法少女になった16人が8人になるまで殺し合う。異常なまでの身体能力と頑丈さと回復力を身に付けた魔法少女は、ひとり1つの「魔法」(スタンド能力のような物)まで持っている。

 

設定で面白いのは「その人」が強くなるのとは意味が少し違って、「魔法少女に変身できる」というポイント。現実世界のプレーヤーの姿とは異なる、それぞれのアバター(魔法少女)へと変身して、不条理な殺し合いを強いられる。アプリで遊んでいた年齢も境遇も異なる「中の人」たちが「魔法少女」となって現実世界で戦うのだが、一般人に正体がバレる事は絶対に許されない。普段はフツウの生活を送るオバさんから、小学生女児までが魔法少女に変身して対等に戦う。

これが上手く物語のキーに組み込まれ、キレイに罠やドラマを発動させる様が、読んでいて非常に心地良いのだ。ミソとなるのは、どんなに強いオリジナルの魔法を持った魔法少女でも、変身していない時はタダの人間であると言う事だ。その魔法少女が桁違いに強いのなら、人間の姿の時に殺せば良いのだ。どうやって? それを敢行した畜生が作中に居るから、ぜひそれを見て欲しい。

 

視点が次々と入れ替わり、サラっと描かれるそれぞれのバックグラウンド(人間本体の性質)と、魔法少女としての自我をうまく重ねて描いている。16人全員を主役まで昇華させるほどの気高い芸術作品ではないが、とんでも設定の小説だと理解した瞬間から、読者はそんな群像劇は期待していないから問題ない。徒党やペアを組んだり裏切ったり野良プレイしたり、なんとも生々しい魔法少女たちの姿よ。

 

バトルロイヤル系のプロットでは、ほぼほぼ全滅ENDは不可避となるのがお約束だが、死んでしまって残念に感じる登場人物もちゃんと居たし、あまりに奇を衒っためちゃくちゃな展開に持っていかない作者に好感を抱く。

設定その物の「面白さ最優先」の雰囲気や「かわいい魔法少女たち」という入れ物の中に、作者の堂々たる挑戦と主張が詰まっているのだ。

 

ひたすら殺しあっていって、また一人死んで、次に誰か死んで、その次に……。という「めちゃくちゃ分かりやすいけど流れが固定されてしまう」ジレンマもこのバトルロイヤル設定の弱点だろう。

それでも大丈夫だ。対策されている。アプリ内アイテム(新武器やドーピング薬など、リアルな課金要素を髣髴とさせる)を殺し合いの途中でストーリーに追加する汚さもある。そしてもう1つこのプロットを支える闇がある。それは内通者の存在。

 

どうもアプリの「運営」と繋がっている魔法少女がプレーヤーとして混ざっているようだ。これが上手い効果を及ぼしてページを最後まで捲らせる手品のタネになる。

他の作品でよく目にするが、物語の大前提のはずである「当初の敵(異物)」との戦いそっちのけに、横のヤツ(本来仲間)と殴り合い始めたら、その物語はそこで半分死んだと私は感じる。作者が才能とアイディアの泉を枯らしたのだろうと考える事にしている。ほぼ間違いなくただのスランプだ。「テ○フォーマーズ」も「進○の巨人」も身内でガタガタやり始めて以来、当初の半分も楽しませてくれなくなった(同じ感覚と離脱点を持つ人は少なくないと思う)。

魔法少女育成計画」はこの類の設定を匂わせながら、何とも不安な千鳥足で巧みに地雷を回避している。「本来の敵」をすり替えずに、「それ(黒い身内がいる事実)を読者だけが知っている状態」を最後の最後まで保つ。この処置こそが内通者設定を生かすのではないだろうか。そうする事でさらに俯瞰的に眺める読者と、当の魔法少女たちとの間にずっと一定の距離を作り続ける事になる。深い感情移入や共感の獲得を捨てて「魔法少女の戦いを使った、もう1つ大きな枠組みのドラマ」にも注意を向けさせる狙いこそが作者の思惑と見る。

 

シリーズ化しているのか、他にも多くの「魔法少女育成計画」が出ているようだ。慢性的に訪れる、これといった本命の本が手元に無いような飢餓状態の時にまたお世話になるかもしれない。