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ホラー小説の要素を全部ぶっこんだ「ナサニエル」を勧める

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ホラー小説における、加点要素の「全部入り」を果たしているような小説がコレ「ナサニエル」。ジョン・ソールは「暗い森の少女」が一番読まれているのだろうか?(「暗い森の少女」は怖くも面白くも感じなかった) 私は「ナサニエル」がいちばん好きになった。

 

まずは部落(村でも可)の閉鎖的で、あまりに静かな違和感と狂気を匂わせ、そのあとに続くのは、土地に根ざした幽霊話と家の中に出るタイプの「もっとリアルで身近な幽霊」となる。そこにホラーの必需品「子供」を絡めて殺人や陰謀をフラッシュバックし、田舎社会の闇を浮き上がらせる。最終的には目に見える銃器の恐怖や、生きた人間そのものの怖さ、永遠に確定できないような謎や悲哀を残して、素晴らしいまでの後味の悪さで物語を締めくくる。

 

ナサニエル」はモダンホラーともサイコホラーとも評されるが、どちらとも言えるだろうし、「圧倒的な怖さ」そのものを読書に求めるならば、手にするべきは違う本になるだろう。けれどこの小説単体を切り取ると、上記の”ホラー成分”の「全部入り」トッピングを味わう極上の体験ができる。

 

ストーリーとしては、夫を亡くした妻が、妊娠した身体で夫の故郷へと息子を連れて行く。帰省などいちどもしなかった夫が、なぜか妻に一言もいわずに帰省し、そこで事故死したからだ。夫の家族たちと田舎社会に馴染めないまま、妻はこの地で生きることを決める(決めさせられる)。すぐに「2度とここから出られなくなる」という声や「パパは事故死じゃなくて、アイツらに殺されたんだ」という声を聞くことになる。そしてこの土地に語られる幽霊話と「ナサニエル」なる少年の話が出てくる。

 

読者は数十ページほど読んで、いちど人物を整理しようと「登場人物紹介」を確認するだろうか。そこに題名となる「ナサニエル」の名前がないことに気付くだろうか。本を開くよりも早く「ある予想」を立てる猛者もいるだろう。私はこの段階で気付いた。なるほど、この小説には、出てくるけど出てこない存在か、出てこないけど出てくる存在が、あるいはその両方がいるわけだ。ちょうどそう悟らされたあたりで「ナサニエル」というワードや幽霊話が、作中の明度と温度を一気に下げる。夫を亡くした作中の妻のように、読者の前にもよく分からない田舎が眼前に現れ、その場所がどんどん暗く冷たく息苦しくなっていく。それと共に浮上する”極めて物理的で直接的な恐怖や痛み”も加わり、静かな片田舎だけが描かれる小説がある意味めくるめくエンターテイメントの色合いさえ提示しはじめる。凄まじい恐怖や凄惨な流血だけを求める読書として手に取らないならば、この「ナサニエル」は極めて優秀なホラー小説として読者に応えてくれるだろう。

 

田舎ならではの不気味アイテム「干草用フォーク」での殺人など、ちょっとした小道具が盛り上げる世界観も一読の価値アリ(私は「バイオハザード4」の狂った村を連想し続けた)。微塵も期待していなかった、ある愛に関しても言及され、まさかのラブストーリーまで明かされる。非情に驚いた。これはほとんどの読者が予想も邪推もしないのではないだろうか。もはや総合エンターテイメントとさえ言える「全部ぶっこみホラー小説」の「ナサニエル」をお勧めする。恐らく絶版しているが、ネットならば安価で入手可能。ただし、先にも触れたが読後の後味は悪いことも覚えておいて良いだろう。