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SF初心者の大好物 「破壊された男」

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アルフレッド・ベスターは「虎よ、虎よ!」と「ゴーレム100乗」しか読んでいない。

その世界観と、作者自身の血が染みているような、鋼鉄の意志を思わせる力と絶対性を感じさせるセンテンスに圧倒された。

どちらも1読しかしていないが、何度もループして「感性をその作品にリンクさせるまで馴染ませてダイブする」タイプの読書が推奨されている。

グラフィックや譜面まで使用して「本に喰われるほどの没入体験」をも可能とする怪物本を攻略できる読書家は凄い。

私はまだ時間と読書レベルが追いつかず、実現には至らない。

 

 

本作の世界設定は近未来。一握りのエスパーが、超能力で社会を牛耳る時代設定。

上記のベスター2作品よりもかなり入りやすく、SF小説の場数を踏んでいない私のような読者でもすんなりダイブできる間口を持つ。

 

エスパーは「感覚」や「視覚」や「経験」を支配する絶対強者として描かれ、それが故に計画的殺人が事実上不可能となった世界の中で、それを企てる社会的支配者と、その男を追い詰めるエスパー警官の戦いを描く。

ベスター初期の作品のようで、文脈やロジックに強いクセは無く、単純に物語に浸れる点がおすすめ。

 

 

 

異能の力を絡めた知能戦が吹き荒れる序盤は「デスノート」のような潰し合いに感じる。

中盤以降は「刑事モノ」の色を強め、終盤近くには「小説としてのドラマ」がこしらえられている。

 

 

今作で面白いのは、目に見える落とし穴で読者をにんまりさせながら、その迂回路に地雷を仕込んでいるところ。

小説構造の中に仕込まれた爆弾が次々に爆発し、作中の景色がふっ飛ばされていく中で、読み手はひたすら奇妙な満足感と感心を抱くことになる。

あぁ、そうそう。これだ、これが欲しかったんだ。作者が一生懸命用意した仕込みは本当に美味しい。ペロっと読んでしまう。

妻が一生懸命用意してくれたご飯を一瞬で飲み込むのに似ている。美味すぎて瞬殺される「手間ヒマとあれやコレや」。ごちそうさまです。

 

 

終盤に男が「破壊」されていく様を外から冷静に語るのではなく、敢えて中から描く手法が光り、そこにリアリティと説得力が付与され、ある意味どうしようもない美しさすら感じさせる。

 

ミステリのように罠ありきでプロットは進まないのだが、実はしっかり構成されていて、小説としての完成度が高い。その上超能力や近未来設定になれた現代日本人にはとっつき易く、幅広い読者層の期待に応える一冊となる。

「破壊された男」がどうなるのか、にたどり着いた時には意外に思った。

アルフレッド・ベスターって意外とロマンチストだったんだ。