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「二流小説家」に夢中になった

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久しぶりに徹夜本に出会った。

おのれの寝食と生活をすべて捨てて本を食べるように読み続け、終わるまで一気に、鈍器になる厚さの小説を駆け抜けるアレだ。読書好きがご存知のあの行為だ。「二流小説家」を読んだのだが、どうしてもベストセラー小説って最初は舐めてかかってしまう事が多いものだ。大体が期待を裏切ってくれるのに。ケン・フォレットの「大聖堂」以来だろうか、私は1回徹夜したら回復まで2,3日かかるジジイだから、まず徹夜はしない人間だ。今作では久しぶりに睡眠と食事を捨てて550ページの本編を一気読みした(させられた)。

 

さんざん「このミス」なんかでピックアップされているようだが、簡単に内容を紹介する。

SFやポルノ関係のクソ安い書き物で生計を立てる「二流小説家」の主人公へ、監獄から手紙が届く。その内容とは、数年前に逮捕され、自分の殺人について絶対に口を割ろうとしない連続殺人犯からのオファーである。自分の犯罪についてお前にだけ告白したい、それは必ずやベストセラーになるだろう。ただし、条件がある。

というラブコールから、このシンプルにして複雑な小説が開幕する。

 

さすがベストセラーになる小説らしい皮肉やブラックユーモアもそこそこに、読者は薄々ある事に気付き始める。描写ではなく述懐をするように軽口をたたく文体に隠されているが、この小説には何かがある。やがてその予感が現実となる。ここから一気にユーモアや日常が崩れ去り、推理小説の領域へ突入する。そこで私は今回犯人当てを敢行しながらの読書を遂行してみた。全員を疑っては面白くないので、2人に絞って可能性や動機を予想してみる。

結果を述べると惨敗だった。

 

最大のネタバレはしないが、これより先は犯人への選択肢を絞る内容となる。

今後この小説を読む可能性のある方には、念の為ここでの離脱を勧めたい。

 

 

 

 

 

私がまず目をつけたのが一人の女。いつも主人公の横にいるアイツだ。読了している方ならご存知だろうが、これは一番オーソドックスな疑いで、作者がいちばんして欲しかったミスリードだろう。はじめは「最も身近な人物が黒幕」の線から、あの女を疑う(まどマギのキュウベエタイプのオチを予想)。

たぶん作者がわざと仕組んだ罠だが、その女が犯人の可能性がラストまで生きていたのがニクい。車につけられている時なんて、わざとのように毎度居なかったじゃないか。

 

次は犯人が主人公自身、というパターンを予想した。こちらが私の本命の説だった。一人称の語り手ほど信用ならない人間はこの世に居ないのだから。これまでどれほどの小説で「ぼく」や「わたし」や「おれ」が、途中から別人とスイッチして入れ替わっていた事か。

これも中盤から終盤にかけて覆される。どうしてもコイツが犯人だと実現不能な事象が起こる。結局犯人は私がチラとも想定しなかった人物と動機だったが、これは見事だと思う。答え合わせを受けると、確かに随所にヒント(それどころか答え)が散らされている。その動機や、それぞれの人物たちの生い立ちから人物造形に至るまで、恐ろしい完成度で産み落とされている。

 

ただただ面白い小説を読みたい人におすすめする一冊がまた増える結果となった。

だがこの小説は、その作者自身の経験で、恐らくは命を磨耗して作られたタイプの快作に感じられる。良書に出会った時にたまに感じる予感を今作に感じた。

「何故かこの作者はこれ以上の物をもう書けない気がする」という何の根拠もない感覚。これが当たる(私にとって)確率は4~5割ほどだったと思う。

 

悪い予感を裏切って、また小説を手に取らせて欲しい作家に出会った。