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ブラック会計事務所勤めで人生詰んだ私があなたのヒマをつぶすブログ

血を流し生きるオトナへのおとぎ話「ホテル・ニューハンプシャー」

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映像化された物を観た人が多いかもしれないし、名前を知っている人は更に多いであろう本作。

作者、ジョン・アーヴィングの語り口は軽妙で嫌味が無い。

だからと言って軽すぎもせず、上手いアドリブを挟んでいるような体で、テンポ良くストーリーが展開される。

 

上巻の触れ込みがコレだ

「ホモのフランク、小人症のリリー、難聴のエッグ、たがいに愛し合うフラニー(姉)とジョン(弟・語り手)、老犬のソロー」

……なんという破壊力。

これらの兄弟と父と母で構成される一家の話なのだが、意外とやりたい放題の内容とは裏腹に、本のメインテーマこそは読み手に委ねられるタイプの小説だと思う。

 

ホテル経営をする父と母の夫婦の愛情を見ても良いし、高校生にして強姦の被害者となった、長女フラニーがその現実と共に生きねばならぬ姿を見ても良い(賭け値なしで強く美しい)。

語り手である次男ジョンをはじめとする兄弟たちの成長の物語として読んだって良いのだ。これは、あなたの「ホテル・ニューハンプシャー」を作る小説なんだ。

 

やがて、正規ルート(小説内)では、父の寂れたホテル経営が、やがて海外まで場所を移し、そこでも手痛い結果となる。

この家族はいつだって何かを奪われ、傷つけられて、その場所に退屈し、不幸である。

少なくともそう見える。やっぱり不幸に見えてしまう。

読む人によっては違う意見を持つかも知れない。あらゆる評価も感想も、この小説へ向けた物に関してはきっと間違っていない。

なぜなら、簡単に思える世界のその中に、明らかに複雑で多面的な構造を隠しているからだ。

 

老犬のソローをもじって、作中の兄弟たちがよく口にする言葉がある。

「ソロー(哀しみ)は沈まない」

この犬は死んだ後も、物理的にも精神的にも兄弟と家族の中に影を落とし続ける。

何気なくこの言葉を咀嚼しながら読んでみると、

「諦めと共に生きている」ように映る作中の人々が、「人を許そうとしている」ように見えてきた。許しているように見えない場面や言動があるが、それでも前へ行くためにそれを成そうとしているような気がする。

こんな意見には賛同しかねる人が大勢いるのだろう。でも、それでも、私は彼らにそれを感じたのだ。こんな事実そのものがこの世界に存在しているのだから、この小説の価値と意味のそれ自体を誰が貶めようか。

 

「あなた」にお勧め!

・単純明快「家庭」をお持ちの方

・「嵐が丘」のような多様な解釈が成立する小説を好む方

・難しくない内容だけど、読み応えが欲しい方